2013年5月30日木曜日

SSメモ:ショタ勇者様育成計画

ショタ勇者様育成計画(めそ)

ほのぼのだと思った? 残念! 魔王様でした!!

騙された。
いやー、これは素直に騙された。最初は筆がすべっていたのだと思いました。のっけから女魔王が私より強いやつに会いに行く状態だったり、男勇者がショタすぎて困ったり、レベル1から育っていくシーンがほのぼの過ぎて、完全にこれはこの路線で走っていくものだと錯覚してました。

話の大筋は女の大魔王がレベル1の勇者を育成して、将来の自分のライバルにしようという光源氏も真っ青な計画を丁寧に描写していくというもの。もちろん修行シーンもありますが、話の要所要所に出てくる魔王様のツッコミ待ちの行動がなんともシュール。いや、お前はっちゃけすぎだろと誰しもが思うこの破天荒な行動に、部下も胃薬がはなせない。うん、どう考えてもこのあらすじの段階でシリアスな話ができるとは思えない() いや、誰しもが思いますよ、これはほのぼの魔王が勇者を育てる育成小説であると。

勇者の素質も見えて、サブヒロインも登場して、ゆっくりと着実に物語が進み。
そして中盤に差し掛かるわけです。
それはまさしく魔王様全開シーン。別の勇者パーティを蹂躙するその光景はもう凄惨の一言。ここまで容赦なくほのぼのをぶち壊し、一直線にシリアス方向に面舵いっぱいするとは想像していませんでした。
いや、正直に言いましょう。

ここまでシリアスに方向転換できるとは思ってませんでした。

これはもう作者のことを侮っていたとしか言い訳のしようがありません。むしろこれはもう作者の切り替えが鮮やか過ぎたと評するべきだと思います。ただし、なんとなく予兆はありました。このままの作風でいけばマンネリ化するだろうなぁ、という気はしてましたし、話の動きとしてそろそろ何か急転するものがあるんだろうなぁ、と漠然とした話の流れは理解していました。しかしですよ、それを理解したとしても、たぶんこんなにガラッと切り替えられるとは思っていませんでしたし、ことネット小説で言えば、それこそ普通は替えられずだらだら話が続いているものです。まだまだ自分のネット小説への理解は浅はかなものなんだと少し反省しています。そしてそれ以上に、まだまだネット小説にはたくさんの可能性が眠っているんだなと希望も見えます。

シリアスに舵を切ってからは、それはもう話のスピードが加速していきます。王道の武道会。妙なライバルの登場。ひっそり勝利の階段を駆け登る勇者。裏で進む謀略。そして決勝戦でのボス登場、落ちこぼれ勇者の活躍。なんとまぁ、王道的でカタルシスあふれる展開なこと。それでいて決して読者の期待を裏切らない話の筋。もはや序盤のほのぼのなんか忘れて、ただひたすらに読みふけるしかありません。物語に夢中になってのめり込んで、気がつけば頑張れと応援したくなる感情が、たまらないほどにこのSSのうまさを表しています。

この急展開を選ぶ際に、作者の方はかなり葛藤があったんじゃないでしょうか。ほのぼのでも人気が出ているのに、変える必要があるのか、と。しかし結果としてこの切替は英断だったと思います。これがあったからこそ、その後の物語が加速して、無駄に世界観の風呂敷が広がらずにすんだと思うので。広げようと思えばいくらでも広げられる下地はあるけれども、それをせずに本当に書きたいものを書いた作者の、その選択と集中の決断はネット小説で稀にみる素晴らしいものだと思います。

完結した作品なので、ぜひそうして形作られた物語の結末を見て下さい。
きっとみなさんも、こう思うでしょう。
デルフォード爆発しろ。

2013年4月21日日曜日

SSメモ:辺境護民官ハル・アキルシウス

辺境護民官ハル・アキルシウス(あかつき)

ストン、と心に落ちてくるとでも言うんでしょうか。
いやはや、読み終えた瞬間の脱力具合とこれで終わりなのかという疑問の抱き具合がちょうどいい塩梅にブレンドされているこの読後感。何事も「もっと先を」と思わせた所で終わらせるのがちょうどいいという説があるわけですが、まさにその意味が実によくわかるSSでした。小説の終わりにしては少々物足りない感はあるものの、ひとつの完成した物語として見れば完成したパズルのごとくきれいにピースが揃っているので、非常に楽しめるものになってると思います。

ストーリーとしては特筆するものがない、というのが正直な印象。国でそこそこの官吏をしていた主人公のハルが、ある貴族の不興を買ってしまい、辺境に飛ばされたところからストーリーが始まるというのが大筋の流れです。おそらく似たようなシチュエーションのSSを探そうと思えば簡単に見つかるんじゃないでしょうか。その後の展開もおおよそ既定路線というか、完結まで大きく話を踏み外したものはないはず。少なくとも敬虔なSS読者の人ならどこかで見たようなシチュエーションをころころ見ることになると覚悟した方がいいかもしれません。まぁ、だからといって面白くない、というのは早計というもの。いや、もう少しストレートに表現しましょう。

面白い。実に面白い。
そして何より「興味深い」。

これだけ既視感のある展開を組み合わせて、なお面白いと思わせるSSは、長年SSを読んできた自分でもほとんど見たことがありません。特にオリジナル小説になってくると、それはもう脳みそを絞りに絞ってようやく1作か2作出てくるか来ないかくらいしかないと断言できます。一体全体このSSのどこにそう思わせる力があるのか、ついぞ自分にはわからなかったのですが、ただシステム思考的に物語の展開を組み合わせたいならまずこのSSを研究するところから始めると、いろいろ見えてくるものがあるんじゃないかなーと思う次第です。

このSS、きっと賛否両論なんでしょうねー。
たしかに中盤見慣れた展開が続くし、一つ解決してはまた一つ、といった感じの積立方式で話が進むから、スピーディーで斬新な話の組み立てが求められている現在のSS業界においては、あまり受け入れられないお話かもしれません。けれども自分にとっては逆にそここそがこのSSの魅力なんだと言い張りたい。なにせそれは言い返せば初心者に優しいということでもあり、また見返した際にこれはあとでこう繋がるんだよなー、と先に思いを馳せながら読むことができるからです。特にこのSSは中盤のメインが内政ですから、そこをつまらないと感じるかなるほどと感じるかでかなり意見が別れるでしょう。

すべてのSSがシリアスである必要はないし、長編でなくてもいいし、厨二よろしくオサレ戦闘をしなくてもいい。そういうことはおおよそ全SS読者が理解していると思います。なにせこの業界、どこかのジャンルが唐突に爆発的に流行ったり、あるいは風船が萎む勢いで駆逐されたりしていったりするので、多様性がないととても存続できません。今では二次創作でよくあるオリ主要素も、過去ではマイナー、というか明らかに地雷要素だったんです。それが現在ではメジャーに昇進しているあたり、この業界の流行り廃れは読めません。だからこそ。このSSのような見慣れた展開が組み合わさったSSがあることは、これからSSを執筆する人の一つの参考になるし、同じくこれからSSを読む人にとっても判断基準として使えるのだと思います。

いろいろ書いてきましたが、ようするに言いたいことはひとつです。
SS業界では貴重な改訂版を完結させた作品なので、ぜひ読んだほうがいいです(笑)

2013年4月10日水曜日

SSメモ:ドラゴンクエストUSB

ドラゴンクエストUSB(ファイヤーヘッド)

ふ、ふはは、あはははは!!! チャレンジャーだ。生粋のチャレンジャーがここにいる。よくもまぁ自分で黒歴史と認識しているものを公開できるものだ(褒め言葉)。USBに忘れ去っていたというところから来たであろう安直な題名を恥ずかしげ無く披露し、全てを開き直って全力で石投げてこいというウェルカムな状態まで開き直るその勇気、まさに尊敬に値する。しかもおそらく内容はほとんど修正していないのだろう、こういうの妄想したことあるなーというネタや展開がピンポイントに仕込まれていて、これだけオープンであるなら「痛いwww」と笑うよりむしろ「同じ妄想したことあるぜwww」という気持ちが強くなって、次々読み進めてしまう。これほど痛面白い作品がほかにあるだろうか。

本作品「ドラゴンクエストUSB」は「今のはメラゾーマではない・・・メラだ・・・」のセリフで有名なバーン様が登場する漫画「ダイの大冒険」の二次創作SS。ダイの大冒険自体がドラクエの二次創作なので、もしかしたらドラクエの三次創作といったほうが適切なのかもしれません。逆行・主人公最強・TSとまさにSS全盛期の地雷原がマッハですが、まぁそこまで気になるほどの原作崩壊は少ないのでたぶん普通に読むことはできます。というか普通におもしろいので何度でも読めます。SSってどんなに地雷要素があっても面白く調理しようと思えばできるのだなぁ、と感じさせてくれる素晴らしい作品。ここでもう一つ「普段は力を隠して……」という設定を入れればもう完璧でしたね!() そもそもこれらの要素って時代を作ってきたわけですから面白く無いわけがないのですが、やはり同じネタをどこらかしこもやっていると差別化が必要なわけで。地雷ネタをそのまま使うのではなくて、何かしら工夫を施すだけでかなりいいSSができると思うのですがどうなんでしょう。誰かやってみません?(

ストーリー自体はすこぶる逆行系の王道で、最強無双、原作沿い展開、主人公支援とまさにSS懐古厨至れり尽くせりの内容。この古き良き設定が、また厨二心と黒歴史妄想を掻き立てる掻き立てる。圧縮→威力増のコンボはもはや鉄板。魔闘士というネーミングと併せてこれはもう厨二乙、でも面白いからもっとやれ、と言わざるを得ません。主人公はポップの生まれ変わりの少女セラであり、彼女が逆行することで物語がスタートします。当然過去の世界にはポップがいるわけで、セラから見たポップがすごく面白い。過去の自分を見るとまさにこういう気持ちを抱くんだろうなと感じます。仲間とのやりとりも、適度な距離感と信頼感があり、そして何よりポップがセラを疑っているという話のもっていきかたは個人的に逆行系の中でも一番バランスのとれた配分だと感じます。まぁ、ここは人それぞれ感覚は違うでしょう。がっつり原作メンバーに関わるのが好きな人がいれば、原作に関わらないまったく別物の展開の方が好きな人もいるでしょうし。自分は面白ければどっちでもいい派ですけど。

それにしても、誰がどう見ても黒歴史な内容なのに、どうしてこれほど面白くできるんでしょうね。これってかなり重要なことです。正直初めて読んだ時は失礼ながらここまで読み返すとは思っていなかったです。でもいつの間にかふとした時に読み返していたり、ドラクエSSが読みたい衝動に駆られた時はちらっと見たりしているので、本当不思議。痛面白い作品に惹かれているのか、作者の筆力の高さに感心しているのか。真実はいつも謎。ただ言えることは、このSSが逆行王道系として一度は必ず目を通したほうがいい作品であるということ。これ読んで、どこが地雷要素なのか、どこが受ける場所なのか研究すれば、そこそこ作品の質があがると思います。なにせ王道突き進んだ作品ですから。

ん? なに? 逆行系の王道だったら原作主人公のダイが逆行すべき?

……。

ダイの大冒険の主人公はポップです。

2013年4月7日日曜日

SSメモ:DARK QUEEN

DARK QUEEN(D・W・W)

昔からある有名作。上司から理不尽な呼び出しを食らったのでちょっと「独裁」について考えていたら、ふとこのSSのことを思いついたので読み返したわけですが、相も変わらず面白い。いつ読んでも面白いというのは、本当ネット小説にかぎらずいい物語の条件だと個人的に思っています。アニメにせよ、ラノベにせよ、名作というのはいつ体験しても面白いもの。懐古厨言うなし。

さてはて、このSSを読み直すきっかけとなった「独裁」というキーワードですが、独裁というのを否定する風潮が世の中にはかなりの割合であると思います。それは独裁が多くの悲劇を引き起こしてきたとか、今日では当たり前の人権をないがしろにしてきたという歴史的経緯を学校なり書籍なり、もしかしたらラノベやアニメ、ゲームなりで学んできたからでしょう。あるいは民主主義が進む世の中において絶対的な決定権、生殺与奪権をもつことに対するやっかみ、嫌悪感といった感情も起因しているのではないでしょう。ある意味では「独裁」という言葉自体に「悪いこと」というイメージが付き纏っているわけです。

本作「DARK QUEEN」はある独裁者を描いたダークファンタジー。中世文化水準の世界で、とある経緯から人類というには非常に怪しい存在になった少女クラナが人類の頂点に立つためにのし上がっていくわけですが、当然のごとく人を殺したり、必要があれば生かしたりと、まんま絵に描いたような独裁者。しかしだからといってそれが人類にとってマイナスかと言えば、どうも読んでいる限りはそうでもない。むしろ人間の価値を認めたり腐敗している行政を成敗したり、合理性を追求して周りの人からは英雄にも等しい扱いをされています。素晴らしいのはクラナ自身がそうした行動をとることこそが自分の望みを叶える最短距離であると考えており、周囲の仲間もまた彼女のそういった思考をわかった上でついていっているということ。

ストーリーやキャラクターの魅力もさることながら、個人的に一番好きなのはメイン登場キャラクターの一人が主人公に対して言った下のセリフ。

「貴方がとても恐い方だとは分かっていました。 ついていけば利用されるのだって分かっていました。 でも、不必要な嘘を付いたり、理不尽な事はしないとも分かっていました」
4.ヒトノココロ より抜粋)

まさにこの一言の中に、自分がこのSSで受けた感銘の全てが入っているといっても過言ではありません。つまり、不必要な嘘をつくことや理不尽な行いをすることは、独裁よりも耐え難いものであると言っているわけです。独裁は「理不尽な行い」をしやすい環境にありますからいろいろと批判されますが、それがなくなってしまえばもはや独裁というのは優れたリーダーによる統率と代わりがないのです。

民主主義を否定する気はないですし、独裁を賛美するわけでもありませんが、いささかどちらも極端に美化、あるいは卑下されすぎていると感じる今日この頃。どちらが良いとか悪いとかそういうのではなくて、何がダメで何がオッケーなのか1つずつ考えていくことが、もしかしたら重要なのかもしれません。

それにしても幼女戦記といい死神を食べた少女といい、どうしてこう独裁的な少女を描く作品が多いのでしょうか……。ぅゎょぅι゛ょっょぃ。

2013年3月11日月曜日

SSメモ:小さな魔女と野良犬騎士

小さな魔女と野良犬騎士(如月雑賀)

心温まるハートフルファンタジーともいうべきなのか。なんだろう、実にいい意味でネット小説らしいファンタジーものなんですよね、この「小さな魔女と野良犬騎士」という作品は。アクのない文体に丁寧なシナリオ、一人一人全力で生きている魅力的なキャラクター。本当どれひとつとっても間違いなく5段階評価で4以上はつくでしょう。突き抜けて面白いわけではないけど、安定して読める作品という意味では、たぶん近年の作品でトップレベルだと勝手に思っています。もちろんシリアスで、理不尽に人が死んで、ハーレムで、ご都合主義な展開もある程度は存在しますが、だからこそ逆にファンタジーに対する安心感というか、「そうそうファンタジーにこういうの求めていたんだ」と思えるというか。

このSSの主人公であるアルトは暗い過去を持ち、戦闘力はかなり高く、でも普段は力を露見させないというネット小説のテンプレの極みを地でいっていますが、作中ではお人好し、ロリコン、ヒモ、ニートと作中で散々罵られているため、正直あんまりそういうところ意識しません。というか読み終わって初めて気づいたレベルです。初見だと間違い無くろくでもない「だめんず」なんですよね、こいつ。実際作中の行動の半分くらいは本当にろくでもないし。ただやる時は本当にやるもので、言葉や行動、そして己の信念を曲げないその矜持が凄まじくかっこいいです。ここまで男らしい、少年漫画の主人公にも劣らない「熱さ」を秘めている主人公ってあんまりいないんですよね。だからこそ余計に普段のダメ具合が目立つわけですが(笑)

そんなアルトを取り巻くヒロインたちですが、これまた揃いも揃ってだめんず好きというダメっぷり。おそらくメインヒロインである魔女のロザリンやニートに餌をやる宿屋の看板娘カトレアとか、これもう完全にだめですわー。世話する喜び覚えちゃってるレベル。冒険者ギルドのサブマスタープリシアとかもはや信者。もちろん本性とかを知った上で主人公とヒロインたちの関係を眺めてみると確かに惚れるのもしょうがないなーと思うわけですが、知らない人から見たら勤勉で真面目で心優しいあの人が、どうしてこうなった状態。ちなみに余談ですが、そういう人ほどだめんずにハマる原因は、たいてい抑圧された自己表現に対する尊敬(自分はダメな部分を人に見せられないのに、あの人は誰にでもオープン。自分にできないこと平然とやってのける、すごい→すてき→抱いての連鎖)らしいですね。思い当たる人は注意しましょう。

さておき。個人的にこういうヒロインってなにげに好きなんですよね。正確には主人公とヒロインの関係性といいますか。ヒロインそれぞれにちゃんとアルトのことを好きになる理由があるんですよ。直接お話として記述されてるものもあれば、匂わせる描写でとどめているだけのものもあるため、完全にそうだとは言えませんが、たぶん読んでいる感じでは単なるいい男に惚れた、ではないんですよね。あれだ、やさしいから惚れたとかそうじゃなくて、やさしいところもだめなところもたまに辛い顔するところもかっこいいところも全部ひっくるめてこの人がいいから惚れたって感じです。どれか一つの要素でも欠けていたら、きっと惚れていないんだろうなぁ。

矜持、というのがたぶんこのSSのキーワードです。様々な人物が自らの矜持を誇り、それに従って対立し、ぶつかりあって決着を付ける。こうした一連の展開は目が離せないどころか、その先はどうなっているのか、何が矜持を支えているのか、のめり込んでしまうほど。特に第一部最後の人の命に関する矜持の持ちようは、どちらも正しいようで、どちらも間違っているようで、善悪の二極論でこの世は語れないんだなぁとしみじみ感じてしまいます。現在第二部に入って、いろいろ世界観が明らかになってきたため、これから先の展開にかなり期待しています。ついに国内だけでなく国外にも話が及び、べたですが主人公の過去に触れる内容も出てきて、まさにこれからと言ったところ。……ただ不安があるとすれば、経験上このあたりがネット小説の中でも最もエタりやすくなる時期なので、作者の如月さんにはぜひ踏ん張って欲しいです。